世紀末の恋の色は
どこか冷静な頭で、きっともう眠っているだろう、と彼女はアルフレートの書斎の前を通り過ぎる。

先へ続く廊下にも蝋燭は灯っており、そんなことだけが彼女の心を慰める。

そしてアルフレートの書斎を通り過ぎたことで、彼女の内にまた別の思いが現われた。

そう言えば、私はアルフレートの寝室も、セシルの居室さえも知らないんだ。

蝋燭の炎で生まれた影が踊る度に、彼女の心の中の影もまた揺れる。

彼女が知らないのは何も、彼らの部屋だけではなかった。

二人のファミリーネームも、仕事も、年齢も、否、アルフとセシルという呼称以外、何も知らないに等しかった。

目の奥が更にツンと痛んで、溢れ出そうになる涙を懸命に押さえる。

所詮、私にはそんなことを教える必要なんてないんだ。

……助けて貰っただけで感謝するべきなのに、なぜこれ以上を求める?

冷静に自問してみたところで、彼女の目頭の熱さは引かなかった。

灯に導かれてやってきた大きな窓の下、濡れた空色の瞳でレナは夜空を見上げる。

嗚呼、せめて月や星たちくらい、慰めてくれたって良いのに。

真っ暗な空からは、真白い雪がはらはらはらはら落ちているのみ。

全ての音を雪が奪っているようにしんと静まり切った夜。

……誰か、名前を呼んで。

孤独に耐え兼ね、瞼を閉じて救いを求める。

誰も起きていないはずの時間。

ゆえに低く静かな声が無音の孤独を切り裂いた時も、最初は幻聴なのだと思った。


「レナ」



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