世紀末の恋の色は
その声は低く、決して大きなものではなかった。

しかし、夜風を冬の雷が沈黙させたのと同じく、その声はレナの孤独を駆逐した。


「ア、ルフ?」


一抹どころではない驚きを口の端に乗せて、レナは背後を振り向く。

そこには平時の服装と変わらないアルフがいて、レナに赤い瞳を向けていた。


「まだ、起きてたの?」


複雑な響きに揺れるレナの声を意に介さず、アルフは彼女との距離を詰める。


「それはこちらのセリフだ。こんな時間まで……」


言いかけて、赤の瞳はレナの頬を流れる涙に気付く。


「そう言えば、お前は怖がりの泣き虫だったな」


笑いを含んだアルフの言葉に、レナは慌てて頬と目尻を拭い、赤い瞳を睨み付ける。


「ええ、どうせ私は怖がりの泣き虫よ! 吸血鬼に見つけられた夜の夢に飛び起きたら眠れなくなる、憐れで臆病な羊よ!
 貴方から見れば滑稽な生き物かも知れないけれど、それでも私は……」


ふ、とアルフレートは彼にしては珍しく、表情を緩める。

高い所にある顔が笑ったのを見て、レナは馬鹿にされたのだと思う。


「何よ。どうせ、貴方に分かって貰おうなんて……」

「ああ、滑稽で憐れで臆病で泣き虫な羊のことなど、理解しようとはさらさら思わん」


自分が放った言葉の矢を全て返されて、レナは続きの言葉を失う。

互いの目を捕らえたままの、赤と蒼の瞳。

彼我の距離は三歩、片方はあくまで静かなまま、もう片方は恐怖に裏打ちされた激情を示したまま。



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