【天使の片翼】
全開にした扉から、申し訳程度に、わずかな空気の流れが起こる。
ソードの部屋の周囲には、あまり緑がないらしく、運ばれた空気は熱を含んで不快なものだった。
・・私の部屋の窓は、緑に面してるのに。
なんで、こんな直射日光の当たる部屋にいるのかしら。
砂漠が広がる国だからといって、まったく緑がないわけではない。
この国の主要産物は、綿花だし、それ以外でも乾燥に強いさまざまなものが育てられている。
実際、ファラの部屋の周辺は、カリプタスと呼ばれる大きな樹木に覆われ、
昼間は大きな影を作り、夜には防寒の役目を果たすため、非常に快適だ。
風も、緑を通して運ばれるため、実際の体感温度も低く、
カナンにいるときと、そう変わらないほどのすごしやすさだ。
このカリプタスの葉から取れる精油は、殺菌作用や鎮痛作用があるとかで、
実用も兼ね、宮殿のいたるところに植えられていた。
それなのに、ソードの部屋の周りだけ、まるでわざわざ切り取ったかのように、
不自然に、なんの緑も生えていない。
何か、理由でもあるのだろうかと思いながら、ファラはソードの額に手ぬぐいを置いた。