【天使の片翼】
太陽をさえぎった部屋の中は、照り返しを受ける外に比べれば、いくぶんか涼しく感じられる。
しかし、それは、ましであるというだけのものであって、快適さという点でいえば、
皆無といわざるを得ないほどの、室温だった。
静かな奥まった一室で、その暑さを何とかしようと、ファラは悪戦苦闘していた。
細く削った木の骨に、絹の張られた扇を持ち、それを扇いで風を送る。
それは、自分自身のためにではなく、寝台に寝ている少年への行為であったため、
彼女自身は、扇ぐ労力のせいで、額に玉のような汗をかいていた。
「・・さ、ん」
「え?ソード?」
寝台に横たわるソードが目を覚ましたのかと思い、ファラは、手をとめる。
濡らした手ぬぐいをソードの額からはずすと、汲んできた冷たい水に浸して、
慣れた手つきでそれを絞った。
「大丈夫?ソード」
何度目かになる呼びかけをして、返事を期待したものの、今回も空振りのようだ。
手ぬぐいで、ソードの顔と首筋を一拭きしてから、もう一度桶に手を浸した。