【天使の片翼】
ソランが一命を取り留めてから半年が過ぎ、カナンの城はすっかり平和を取り戻していた。
城の廊下を、いつものようにバタバタとかけてくる足音が聞こえてくる。
それが誰かなんて考えるまでもなく、ソランは読んでいた本を閉じて、ため息を落とした。
「ソラン!街へ遊びに出かけたいの!護衛として一緒に来てくれる?」
扉を開けると同時に、息を弾ませて風のように舞い込んできたのは。
「ファラ様。もう16歳になられたのですから、もう少しおしとやかに」
「もうっ!ソランまでそんな硬い事いわないで。
若いのに早くはげちゃうわよ。
父様の許可はもらったの。いいでしょ?」
腕を組むように引っ張られて、ソランはやれやれといった風に椅子から立ち上がった。
兵士たちの休憩部屋となっているその場所では、したり顔をしたソランの同期の少年たちが、手を振っている。
「ファラ様。どうぞごゆっくり!」
一人の少年が、ファラに声をかけた。
「ありがとう!行って来ます」
にやにやと笑う少年と目が合って、ソランは眉をひそめた。
周りの少年たちも、口だけを動かして何か伝えようとしている。
どうせ、うまくやれよ、とかなんとか言っているのだとわかっていたので、
ソランは無視を決め込んだ。