飛べないカラスたち



「二年前に、仮釈放。そこから街を転々とし、人探しを続けたが、結局見つからず行き倒れたところを教会に拾われ、そこで自分の行い全てを懺悔し、息子の墓を大切にすることで自分の行いを償おうとしていた。反カラス組織の事実は知っていながらも目を瞑っていたらしい。上に取り入ればカラスについての情報を教えてもらえるからな。実際、彼女は誰よりもカラスについて調べていたし、知識を持っていた。もう少しで俺たちのことも調べがついただろうな。しかし多分、俺たちの正体を知りたかったわけでもなく、ただ、カラスに自分の息子が奪われたのかもしれないという可能性を調べたかっただけかもしれない」



先ほど、母親が墓参りをしていたその背中を思い出して、微かな眩暈とぼやけた視界の中に一つの墓を捉える。


西洋風の墓石には長方形の石のプレートに英文字が書かれていた。


そこに書かれていた文字はクロウの前の名前。


綺麗な花が、夜風に揺れている。本当はこんなにも儚かった、孤独な母親のように。


無常にも冷たい風が母親の体温を奪っていく。


いつの間にかこんなにも細く小さくなってしまった母親の肩を抱きながらただ小さく嗚咽を漏らすしか出来なかった。


自分が『カラス』じゃなければ、母親はこの手をもっと早く伸ばしてくれていただろうか。


自分が銃口さえ向けなければ、母親は死なずに済んだのだろうか。


銃口を見た母親は、気付いたのだろう。


もう一度などないのだと。


だからこそ、憎しみの対象で居続けた。


そしてそうすることが自分の罪を、許してもらう機会だとも、思ったのかもしれない。


しかし母親が最後に残したのは、残酷な優しさでしかなかった。


暫くクロウは、母親の手を離すことも涙を止めることも出来ず、ただ冷たすぎるこの世界の風を一身に受けていた。









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