飛べないカラスたち
*




「もうあの家に近寄るな」



それだけ言って、父親は逃げた。


レイヴンにはその真意がなんとなく察せたので、何も不満など言うこともなく早々に必要な分の荷物を持って家を出た。


その日は卒業式で、だけど家を失ったのに卒業式に出れるほどの図太い神経もなく、父親に渡されたお金を財布に綺麗に入れながら当てもなくさ迷い歩いていた。


いつかはこうなるとは思っていたけれど。


レイヴンはこの先の不安と同じくらい大きな一つの心残りを胸に引っ掛けながら振り返らずに心とは裏腹な明るい道を歩く。



「カイン……きっと悲しむでしょうね」



大人の事情なので、子供の自分にはどうしようもない。


自分は妾の子。


父親の本妻の家に親戚の子供として潜り込んだときから騙していると言う、拭いきれない罪悪感の中、生活していた。


それは勿論、レイヴンが感じることではない罪悪感ではあったが、レイヴンは人一倍心優しかった。


父親はレイヴンの母親を愛してはいたが、レイヴンを愛してはおらず、本妻も愛してはいない。きっとカインも。


妾の死んだ今、レイヴンのために一軒家の家賃を払い続けるのは少し気が引けたのだろう。


そして本妻に親戚の子供だと嘘をついて、一緒に生活をさせ、そんな偽りの生活が暫く続いた頃。


本妻に、レイヴンが妾の子であるとバレ、出て行くようにと父親に言われ金だけを渡されて行き場を失った。


お金も然ることながら住居を渡してくれたほうがどれほど良かったか。


しかしそれを恨むこともレイヴンは特にしなかった。


憎むよりも心配だった。


置いてきた義弟と、これからの自分が。





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