飛べないカラスたち
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子供の頃はよくはわからなかったし、今になっても人間の、男女の間に起こるいざこざはルックにとって首を傾ぐ問題だった。


不倫だとか浮気の回数を得意げに話す男女も、不倫や浮気をされて苛立ちや絶望の言葉を吐き散らかす男女も。


子供だからわからないのであれば、その辺は子供でも構わないと思った。


大人になってそんなことを理解して無様に騒ぎ散らすような人間にはなりたくなかったのである。


ルックはいわゆる本妻の子。


本妻の意味さえよくは知らなかったが、ただ母親には言ってはいけないということだけ幼いながらに理解をしていた。


その頃、莫大な遺産を持つ父親とは殆ど会わず、会ってもうまく話す内容が見つからずに沈黙のまま時間が過ぎていくなんて事がよくあった。


母親は然して気にした様子もなく、たまに帰ってくる父親にせっせと献身的に付き従っていた。


それはとても健気な献身さで、子供ながらにそこまでしなくても良いのにと思うほどだ。


父親との楽しい思い出が殆どないルックにとって、父親は愛すべき対象ではなく、どちらかと言えば愛している母親を扱き使う冷たい人間だと思っていた。


食事を用意しても礼の一言もなく、味の賞賛もない。食事後、すぐに風呂に入れるように湯船の湯を温めていても何も言わない。


布団を敷いておいても、新聞にアイロンを掛けていても、お茶を出しに行ったりしても、急なお使いから帰ってきたときも。


ルックの中の父親は礼というものをしない、頭を下げることなどない父親だった。




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