飛べないカラスたち
*




あと一人。


今日の仕事、つまり今回の仕事は、クロウの目の前に立っている、この一人の女で終わる。


華奢な身体に、白いワンピースを着ている。日本の夜、しかも深夜の気温には少し場違いなほどの、薄着だった。


日本、というより各国はガラスに似た箱の中に存在しており、そのガラスの中の気温は常に日中は24度、夜は15度に設定されており、少し肌寒くなっている。


建物の中ならまだしも、ここは教会の裏の墓地。深夜と言う時間帯も相まって余計な肌寒ささえ感じる場所だ。


しかし、違和感はまた別のところにもあった。


最後の一人であるこの女は心臓(コア)を壊す武器である、シルバーの銃を持っているクロウの前で悠然と微笑を浮かべていたのである。


そして、相手を削除するべき道具を持っているクロウはその決定的な差など、気付いていないかのようにただ小さく震えていた。


その怯えにも似た表情は、まるで心臓(コア)を破壊する武器を目の前に突きつけられた、一般人のよう。


些(いささ)か顔色も悪く、その対象から目を逸らしたいのに逸らせない。逃げたいのに逃げられない。削除したいのに削除できない。そんな、逃げ場のない恐怖を、クロウは抱いていた。





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