旦那様は社長

「ふんッ。今は2人しかいないだろうが」


今までは社長のことを“大人で気品溢れる男”と思っていたのに。


こうしてプイッと顔を背ける姿を見ると、まるで小学生の子供みたいに思えてくる。


“大人になりきれない子供”……みたいな。


「会社であることに変わりありません」


「お前な、オレが納豆なんて庶民的な食い物を口にするわけがないだろう。何度言えば覚えられるんだ?」


「社長の今までの食生活を続けておられますと、お身体によくありません」


いくら見せかけだけの夫婦でも、結婚したことは事実なのだから。


社長が万が一病気で倒れてしまった日には、有栖川家の一族から何を言われるか……。


気は進まないけれど、社長の身の回りのお世話はあたしの仕事!


と、自分を励ましながら努力しているのに。


「どうせ早死にするなら、好きなモノだけ食ってた方がいいだろう。納豆なんて得体の知れないものを口にするよりはマシだ」


「……」


社長にはまったく理解してもらえない。


「納豆は大豆ですし、身体にとてもいいんですよ」


「オレの朝飯はな、昔からキャビアだって決まってんだよ。アレがないと一日が始まった気がしない。分かるか!?このオレの複雑な気持ちが!!」


< 64 / 334 >

この作品をシェア

pagetop