†Orion†〜Nao's Story〜


あたしの手には消毒液やら氷やらと、お父さんから見ればケガの手当てをする道具にすぎない。


ピアスを開けるには、あと、安全ピンと、それを消毒する火が必要……。

安全ピンはあたしの部屋にあるからいいとして、問題は“火”だ。

お父さんもお母さんもタバコを吸わないから、我が家にはライターというものが存在していない。

あるとすれば、キッチンの引き出しに入っているチャッカマンくらいだ。


だけど、キッチンはお母さんが陣取っていて。

ダイニングでは、お父さんがスタンバイしている。

とてもじゃないけど持ち出すのは不可能だ。



……あぁ、せめてお父さんが帰ってくる前に準備しとけばよかった。



「奈緒? どうしたんだ?」


「あー……ううん、なんでもない」



しかたない。“火”はあきらめよう。


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