准教授 高野先生の恋人

「ま、あと一ヶ月先の話だからね。ホワイトデーが近くなったらまた聞くよ」

「今日と同じ、あのカステラがいいです」

「えっ、よっぽど気に入ったんだね」

「それはもう、とっても」

寛行さんの自称“ぐりとぐら直伝のカステラ”は、

あったかで、やわらかで、とっても優しい味がして、まるで彼の人柄まんまだった。

穏やかな日溜まりのような彼が作る、お日様のカステラ。

「よしっ!あのカステラだね」

「うん、あのカステラです」

「けど、気が変わったら変更OKだよ。亀甲縛りの練習しとくからね」

「けっこうですから・・・」

「あっ、キッコウとケッコウ・・・」

「関係ないですってば!」


その夜、彼は本当に私に何もしなかった。

そう、羊の数を数えること以外には、何も・・・。

私は彼の腕の中で、ひょーいひょーいと、柵を次々に越える羊を想像しながら、

緩やかに穏やかに眠りについたのだった。


< 114 / 324 >

この作品をシェア

pagetop