准教授 高野先生の恋人
「ま、あと一ヶ月先の話だからね。ホワイトデーが近くなったらまた聞くよ」
「今日と同じ、あのカステラがいいです」
「えっ、よっぽど気に入ったんだね」
「それはもう、とっても」
寛行さんの自称“ぐりとぐら直伝のカステラ”は、
あったかで、やわらかで、とっても優しい味がして、まるで彼の人柄まんまだった。
穏やかな日溜まりのような彼が作る、お日様のカステラ。
「よしっ!あのカステラだね」
「うん、あのカステラです」
「けど、気が変わったら変更OKだよ。亀甲縛りの練習しとくからね」
「けっこうですから・・・」
「あっ、キッコウとケッコウ・・・」
「関係ないですってば!」
その夜、彼は本当に私に何もしなかった。
そう、羊の数を数えること以外には、何も・・・。
私は彼の腕の中で、ひょーいひょーいと、柵を次々に越える羊を想像しながら、
緩やかに穏やかに眠りについたのだった。