ホスト前線上昇中
「どうして私なんですか?」

このまま無言の時間を過ごしたくなかった。彼の心情を聞き出したかったのも事実。

「……君の本音を知りたかったから」

「本音?」

自分と同じことを考えていた相手に対して、思わずリアクションを失ってしまう。
運ばれてきたアイスカフェオレの中の氷が、解けて小さい音を奏でる。

「村瀬のこと本当に好きなの?」

ストローの入った袋を破ると、それをカフェオレに沈めた。

「なっ……何よ、突然」

質問がストレート過ぎて回答に焦る。
彼はその反応が予想通りだったと言うように再び笑みを浮かべた。
完全にペースはあちらさんにある。

「僕には君が無理をしているように思えてならない。違うかな?」

「それは――」

違うって言えなかった。
どうしてだろうって問いただしてみても答えが見つからなかった。

「あいつ(村瀬)は恋愛は『ゲーム』の一つだと思ってる。これは杉原さんに対しても同じだ。こんなバカげた恋愛ゲームに付き合う必要はないんだよ」

「確かに最初は私もヤケになって『付き合う』とか言っちゃったけど、今は違うんだと思う……多分」

「どうやら君自身もまだ心の中に迷いがあるみたいだね」

「……はい」

「――椎名麻理と別れた理由。杉原さんは知ってる?」
彼は最後の切り札でも出すかのように眈々と話を始めた。

その言葉を聞いて私は首を横に振ることしかできなかった。

「彼女は本当に美由紀のことが好きだった――。いくら彼女が本気になろうともあいつには『ゲーム』の一つでしかなかった。それは変わらなかったんだ」

「……」

「しかし、その『ゲーム』に終止符を打つ出来事が起きた」

彼の声のトーンが明らかに二トーン下がる。
こういう展開では決まって……、

「終止符?」

暗い話になることくらいは承知していた、ハズだった……。

「そう……、彼女が妊娠したんだ」

ずっと心の中で渦巻いていたモヤモヤが一つ解消された。
と同時にあまりにも衝撃な事実のため、思考回路がショート寸前になっていた。
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