ぼくの 妹 姫




自宅の前でタクシーを降り



真っ暗な家の前
コートのポケットから
鍵をだした




見上げた11月の空は澄んで
星がよく見える






真っ暗な玄関で
靴を脱ぐと
パッと明かりがつき


廊下からパジャマの上に
フリースを羽織った
美紗が立ってた




靴を揃えてから
振り返り


「悪い、起こしたな」



すれ違い様
美紗の肩に軽く手を置くと



「今日はずいぶんと
香水臭い女のところへ
行ったのね」



ぼくを見上げる美紗の瞳に
どんな感情が渦巻くのか
分かってやれない




ぼくは もう美紗に
一欠片の興味も持てない



フッ……と笑い



「ぼく、ぐっすり
寝てたんだけど
あんまり香水がきつくて
目が覚めちゃったよ」



いい夢、見てたのにさ
そう言いながら
キッチンに進み
水を飲むと





「中西の叔父様
亡くなったって
さっき連絡きたわよ」






「――――――――え?」



流しにグラスを置き
濡れた口を拭うと
美紗が腕を組み
うつむいて



「私は行かないわ
大樹、風邪気味なの
喪服、用意するから
もし、行くなら
あなた一人で行ってください」




「………でも」



中西の叔父は
蕾がずいぶんと世話になった人



間違いなく葬儀には蕾が……




あごに手をやり
思考をめぐらすぼくを
美紗は横目でにらんでから
寝室に戻って行った





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