ぼくの 妹 姫




「………バカだねぇ……」



蕾は独り言のように呟いた




「……お兄ちゃんが
苦しいのは………
愛されてるから
苦しいのよ……?
ちゃんと、わかってる?」



ぼくを胸に抱き
髪を ゆっくり撫でながら
蕾は言った




「もう、いいんだよ
もう、終わったことだよ

お兄ちゃんも私も
もう小さな子供じゃない

つらい記憶は一生消えない
だけど、もう終わったこと…」



目を閉じると
蕾の吐息が
震えてるのが
わかった



「私は6才じゃない
15才でもない………
時間は止まることなく
平等に流れて
お兄ちゃんの蕾は
もうここにはいないの」



こぼれ落ちる涙が
喪服の胸に染みをつくる



「過去に囚われたら
ダメだよ…………

あの頃のお兄ちゃんも
もうどこにもいないんだよ

還れないことだって
知ってるはずだよ……」



苦しくて苦しくて
嗚咽を漏らし
肩を震わせた



  還れないことだって
  知ってるはずだよ




ぼくと蕾の日々は
『過去』という名の暗闇に
形を変えることなく
一生、置き去りのままなのだ




取り戻したいと
あがいたところで
都合よく過去に還る
タイムマシンなど
どこにも存在しない――――





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