道標



  肆

 大通り公園へと繋がる横断歩道。
 その向こう側に昨日の女の子の姿が見える。赤く光る信号機の下に。
 東に見えるテレビ塔。
 その時計はあと少しで一時を示そうとしている。
 赤い信号が青へと変わり、人々が渡り出す。
 小走りで渡る白いコートの女の子。
 僕はその姿に笑顔を向ける。
「すみません。約束した私が遅く来るなんて……」
 女の子は少しばかり息を切らす。
「気にしなくてもいいよ。まだ一時前だから」
 僕は言う。
 それでも女の子の済まなそうな表情は変わらない。
「あの……このハンカチお返しします」
 白いコートのポケットから、黒いハンカチを取り出す女の子。
 綺麗にアイロンが掛けられたハンカチを受け取る僕。
「昨晩はご迷惑をおかけして、すみませんでした」
 頭を下げ謝る女の子。
 僕はもう一度微笑む。
「今日の夜も雪像を見に行くんだね」
 頭を上げた女の子の表情は、驚きの表情へと変わっていた。


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