道標

 伍

「一年前に約束したんです」
 場所を公園のベンチへと移し、二人で座る。
「来年の雪祭りに二人で行こう。って……」
 その子は僕を見ない。
 ただ遠くを見るその眼は、悲しみの色。
「小さい頃から一緒にいた男の子とです」
 僕らの前を一組のカップルが横切る。
 話しを一時的に止め、そのカップルを目で追う女の子。
 僕も同じように視線を向ける。
 手をしっかりと繋いで歩く恋人同士。
――うわ~、大っきい城!
――すげぇなあ。
――これってどうやって作るんだろうね?あっ、見て見て!あっちにあるのって、何かのアニメのキャラクターでしょ?
――ん?どれ?あ~本当だ。よく出来てんなあ。
――ねぇねぇ、もっと近くで見ようよ。
 女が男の手を引っ張る。
 何処ででも見ることの出来る光景。その光景を見つめる女の子。
 少し経ち、またポツリポツリと話を再開させる。
「去年の雪祭りも二人で行くはずだったんです。でも、私が風邪をこじらせて肺炎になって入院してしまい、行けなくなってしまったんです」
 女の子は、目の前にそびえる雪像を見ている。
「病室で私は一人で落ち込みました。どうして私はいつもタイミングが悪いんだろう。って……」
 僕と女の子の目の前を、はしゃぎながら走り抜けていく小さな子供達。
 女の子は少しばかり溜息交じりの息を吐く。
 そして続ける。
「だけどその男の子は、毎日私のお見舞いに来てくれて、落ち込んでいる私を見て慰めてくれました」
 女の子の表情は変わらない。
「そして、来年の雪祭りは二人だけで行こう。そう言ってくれたんです……」
 そう言って、女の子は少しばかり下へと目線を落とす。
 僕は黙って女の子の話しを聞き続ける。
「……私とその男の子は家も隣り同士で、小さい頃はいつも一緒に遊んでいました」
 小さく息を吸う女の子。
「その子は小さい時よく他の子供達にいじめられていて、よく泣いていました。私はその子がいじめられないよう傍にいてあげて、守ってあげていました。友達よりも弟みたいな存在で、私が守ってあげなきゃ。そう思っていたんです」
 女の子の話しは続く。
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