ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
とにかく、さっさと金に()えてしまうのが吉だ。バイクでは(はこ)べないので、タクシーを(ひろ)わなければならない。(あば)れないように、後ろ手に手錠(てじょう)をかけようとしたその時、
「その男と荷物を、こちらに(わた)してもらおうか」
通りの(おく)から、月並(つきな)みなセリフが聞こえた。
「ああん?」
()り向くと、これまた月並みな悪人(づら)が10人ばかり。(おそ)らくマルケスが所属(しょぞく)していた組織(そしき)連中(れんちゅう)だろう。どいつもこいつも首から『私たち南米(なんべい)の方で、薬剤(やくざい)関係の商売(しょうばい)をしている者であります♪』と看板(かんばん)をぶら下げているかのように見えるほど、わかりやすいオーラを(はっ)している。
「思ってたより(おそ)かったじゃねえか」
マルケスを押さえつけたまま、俺は先頭(せんとう)にいた白スーツにブラウンのグラサンをかけた、連中のボスらしき男に声をかける。
「君たちが早すぎるのだよ。ブラッディ・ファング君に“ホーク・アイ”ディルク・フューラー君。さすがだね」
俺達の二つ名を知ってやがる。調べた上で、俺達を追ってたってわけか。
(うれ)しいね。俺達も有名になったもんだ」
(うら)の世界で君たちの名を知らぬ者はおらんよ。ところで(うわさ)によると、君たちは3人組だと聞いていたのだが、あとの一人はどうしたのかね?」
「知らねーよ。そろそろ晩メシだし、どっかでオコサマランチでも食ってんじゃねーの?」
「オコサ……何だと?」
コロンビア人にオコサマランチがわかるわけもない。
「さあな。もっと東洋(とうよう)の勉強したらどうだ?」
「おい、すぐに調べろ! 何かの暗号(あんごう)かもしれん!」
「へい、ボス!」
「本気で調べんな!」
もしかしたらこいつら、もの(すご)いアホなのかもしれない。
よくよく(かんが)えてみりゃ、マルケスみたいな間抜けにまんまと売り物と、ついでにお土産(みやげ)まで盗まれた連中だ。(かしこ)いわけがなかった。
ディルクのやつなんか、人差(ひとさ)(ゆび)眉間(みけん)に当てて頭を()ってやがる。
「ふ、ふん。わけのわからん言葉で、俺らを(まど)わそうとしても無駄(むだ)だぞ」
要するに調べてもわからなかったらしい。オコサマランチ。
「とにかくだ。大人しくそいつと荷物をこちらへ渡せ。おっと。荷物の中身(なかみ)は知らなくて良いぞ」
ゲラゲラと男たちが笑いだす。いや知ってるから。中身。
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