海に花、空に指先、地に霞
下駄箱からお気に入りのミュールを取り出していると、起き出して来た天鳥が顔を覗かせた。
「…おはよ、天鳥。い、…行ってきます」
何だかちょっと恥ずかしくなって少し吃った。
天鳥はただ、じっとこちらを見ている。無言で。…珍しく、表情もない。
「……天鳥?」
「行こ、沙杏ちゃん。アトリは寝起き悪いから、まだちょっと、ぼーっとしてるだけだよ」
「え、…うん」
再度、行ってきますとだけ言い残して、私たちは歩き出した。
街は柔らかな風に包まれている。
春独特の暖かな風と、ごく僅かに含まれる冷たい風が絶妙に入り交じる。
時折、花の香りが運ばれて、世界中に満ちているようだ。
並んで、歩く。
駅までの道のり。
真横というよりは、上から降ってくるような、凪世の声。
私は何だか…本当にヘンだ。やたら緊張している。