この世で一番大切なもの
「お待たせしました」

「リュージ、ユウタと自分にビール注げ」

「ありがとうございます」

「で、こういう時はユキに頂きますって言うんだ」

「はい。頂きます」

レイヤは丁寧に教えてくれた。

「リュージ君は何でホストになろうと思ったの?」

ユキが聞いてくる。

俺は迷った。

まさか刑務所から出てきたばかりで他に仕事もなくて、なんとなくホストになったなどとは言えない。

「モテたいからですかね」

俺は上手く面白いことを言った。

「ぎゃははは。ス~ケ~ベ!ス~ケ~べ!!」

レイヤがノリノリでコールをする。

ユウタもそれにのってすかさず声を合わせる。

飲むしかない。

俺はグラスに入ったビールを飲み干す。

すぐに自分のグラスにビールを注ぐ。

どんな場合も客が何か言わない限り、グラスの中には飲み物が入っている状態にする。

そう教わっていた。

「リュージはスケベだなあ」

レイヤは妙に楽しそうだ。

「スケベそうな顔して歌舞伎町歩いてたんで、スカウトしたんですよ」

ユウタが言う。

「マジか~!ぎゃははは」

勝手に爆笑されているが、悪い気はしなかった。

「でもな~リュージ。俺もモテたくてホストやろうと思ったんだよ」

「レイヤ~!ス~ケ~べ!!」

ユウタがすかさずコールをする。

レイヤは席から立ち上がって、派手にグラスの中のビールを飲み干す。

俺はすぐにレイヤのグラスにビールを注ぐ。

「レイヤかっこい~」

ユキがレイヤに抱きつく。

「ユウタ!ユウタ!」

「え~」

「おいユウタ!俺に飲ませてタダですむと思うなよ!グイグイ!グイグイ!!」

ユウタはレイヤに無理やりグラスを口に押し付けられた。

「レイヤさん。すいませんす~!」

ユウタがビールを一気飲みした。
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