この世で一番大切なもの
「いいかリュージ。とことん女を口説いて惚れさせて騙せ。でも将来性のない男に女は金を使わない。実家が金持ちだとかウソをつけ。結婚すれば安心だと女に思わせるんだよ。この人だったら安心だと思わせろ」

俺はレイヤの話に身体が固まる。

いつもハイテンションで酒を飲んでいるレイヤの姿とは全く違った。

「女をガチガチに離れられないぐらい惚れさせれば、昼間の仕事の女でも風俗に落ちる。貯金がある女なら全額下ろすさ。ブスで金がない女でもサラ金や闇金で借金して金作る。そうしなきゃダメなんだ。分かったか?」

「はい」

「リュージ。うちの店のナンバーワンはもちろん分かるだろ?」

「はい。京介代表です」

「そうだ。みんな何であんなブサイクの三十過ぎのオヤジが売れてるか疑問に思ってる。俺みたいな容姿や若さで勝ってるホストが、なんで京介代表に勝てないのか。たしかに会話とかは上手いがそこじゃない。いろいろな情報を聞いたんだが、京介代表はそうとうヤバイぞ。結婚届け使ったり、女薬漬けにしたり、借金させてヤクザに売ったり、悪い噂しか聞かない。何度も女殴って警察沙汰にもなってるらしい」

「マ、マジすか」

「とにかく、そんぐらいしなきゃダメだってことだ。詐欺師になれ。俺ももっともっと女泣かして騙して、ナンバーワンになろうと思ってる。二週間でもなんとかなるだろ。女惚れさせんのなんて三日あれば十分だ。頑張れよ」

「ありがとうございます」

俺はレイヤに頭を下げた。

俺はそのとき、良心という人間が持つ一番大切なものを捨てた。

世の中、綺麗事では生きていけない。

俺の最愛の人、ナオもホストに寝取られていた。

マジメな俺がナオを殺し、刑務所というこの世の地獄を見た。

俺は悪魔に魂を売った。




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