この世で一番大切なもの
何よりショックな出来事が起きた。

尊敬する先輩のレイヤが捕まったのだ。

女が金を使わなくなってぶん殴ったらしい。

女を殴るのは、ホストとヒモの基本テクニックだ。

殴って怒鳴れば女は愛されてると勘違いする。

だが、運悪かったようだ。

女が警察に駆け込み、逮捕。

女がいつも暴力を振るわれていたとか警察に話しているようで、レイヤは大変みたいだ。

女は金を積まれても示談する気はないらしい。

ということは、長期間、獄中にレイヤは閉じ込められる。

犯罪者。

人間として最底辺の場所に行くわけだ。

俺は面会に行き、ガラス越しに、レイヤは疲労しきって無気力な表情をしていた。

ホストクラブで輝いていたレイヤとは違い、目の前には、髪の毛がボサボサで髭も汚く生え、色気の欠片もない、取調べで疲労しきり人生に絶望した男の姿があった。

俺は何を話していいか分からなかった。

きっと俺がナオを殺して捕まって、面会にいつもきてくれた親もこういう気持ちだったのだろう。

ただ悲しい。

悲しすぎるリアル。

俺の心は、悲しみと、先の見えない未来に、泣いていた。

希望に満ち溢れていた、ホストになったばかりの時の気持ちは、虚しくもどこかに飛んでいってしまったのだ。


< 32 / 35 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop