この世で一番大切なもの
涙をぬぐっていると、一見歌舞伎町に似合わない女がフラフラ一人で歩いていた。

歩いている姿だけで心が病んでいるのが分かる。

というかこんな時間に歌舞伎町に普通の女はいない。

どうせ家出少女か、頭がおかしい女だろう。

金も持っていない。

歌舞伎町でよくこういう女がいる。

キャッチをしていれば分かる。

簡単に仲良くはなれるが、ホストとしてまったくプラスがない。

金がある女じゃなきゃダメだし、ましてや、家出などの未成年に手をだせば捕まる。

いつもなら声をかけないのだが、不思議と俺は女に話かけていた。

「何してるの?」

ありきたりな話かけ方だった。

でも自然だったと思う。

金を求めていないからだろうか。

「あっ、マンガ喫茶に行こうと思って」

俺は女の顔を見て色白でカワイイと感じた。

少し疲れている表情を女はしていた。

家出少女や深夜に徘徊している遊び人に多い、ギャル風ではない、純粋そうな女だった。

「明日何かあるの?眠いの?」

俺は聞いた。

「いや、何もないし眠くないけど、行く場所ないし・・」

「じゃあ俺と遊ぼうよ」

「えっ、いいよ」

あっさり女はオーケーした。

女はさびしかったのだろう。

俺もさびしかった。

損得抜きで、なぜかとても遊びたい気分になった。



< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop