臆病なサイモン







* * *







ピンポーン。




「…はぁい」

あの市民プールの一件以来、なんだかなにもかもにやる気が起きなくて、俺は毎日毎日、ベッドと勉強机の往復しかしていなかった。

勉強は元々キライじゃないし、高校受験をしくったらさすがにダサすぎるから。

黙々と机に向かって課題や問題集解いていくのは、なんかリアルにジュケンセーやってるみたいで気分イイ。

いや、リアルジュケンセーだけど。

妹が握ったぐちゃぐちゃのおにぎりを夜食に、「父親」のことも「キンパツ」のことも、余計なこと考えないで集中できるってのは、最大のメリットだった。




「…xとyの値を求めよ」


―――ただ、ひとつだけ。


『サイモン』


忘れられないことも、あったけど。



『…伝えたいことを、結局伝えられなかった』

何回も何回も繰り返し観たPVみたいに、それは俺の脳内を遠慮なしにリピートしてる。


―――いつでも言えるから今日じゃなくてもいい、なんて甘えて、結局、言えず終いで。

それはきっと。


『君ならできるよ、サイモン』

俺を後押しするための言葉だったのだと、今ならなんとなく、わかるけど。







< 182 / 273 >

この作品をシェア

pagetop