臆病なサイモン
* * *
ピンポーン。
「…はぁい」
あの市民プールの一件以来、なんだかなにもかもにやる気が起きなくて、俺は毎日毎日、ベッドと勉強机の往復しかしていなかった。
勉強は元々キライじゃないし、高校受験をしくったらさすがにダサすぎるから。
黙々と机に向かって課題や問題集解いていくのは、なんかリアルにジュケンセーやってるみたいで気分イイ。
いや、リアルジュケンセーだけど。
妹が握ったぐちゃぐちゃのおにぎりを夜食に、「父親」のことも「キンパツ」のことも、余計なこと考えないで集中できるってのは、最大のメリットだった。
「…xとyの値を求めよ」
―――ただ、ひとつだけ。
『サイモン』
忘れられないことも、あったけど。
『…伝えたいことを、結局伝えられなかった』
何回も何回も繰り返し観たPVみたいに、それは俺の脳内を遠慮なしにリピートしてる。
―――いつでも言えるから今日じゃなくてもいい、なんて甘えて、結局、言えず終いで。
それはきっと。
『君ならできるよ、サイモン』
俺を後押しするための言葉だったのだと、今ならなんとなく、わかるけど。