臆病なサイモン
ピッピッピッ…。
あと一秒。
ピーン!
はい六時ー。
屋上にダッシュする時間。
「サイモーン!カラオケ行かねー?」
まだ教室に残ってたダチンコに誘われたけど、俺、今日はなんかそんな気分じゃない。ごめんちょ。
時間帯が時間帯だから、校舎に残ってる生徒はそんなに多くない。
大体、五時過ぎに部活が始まって、ぽつぽつ残るヤツらがいたとしても六時半には大半が帰る。
屋上の鍵を持ってるとは言っても、そうそう人前で見せびらかせるもんじゃないし、てか誰かに見られたらそれだけでヤバイ。
だからいつも屋上に上がるのは、校舎に人気がなくなってから。
なるべく部活生にも気付かれないように気も遣う。
つっても、屋上へ上がる階段のほうには男子トイレしかないんだけど。
(今んとこ、誰かに遭遇したことねーし)
ポケットに両手を突っ込んだまま、誰もいない廊下を一番端っこまで進む。
ペッタペッタ。
自分の足音に混じって、さっきまでにらめっこしていた進路希望表の「カリカリ」が未だに聞こえてくるような気分だ。
あのあと、隣の席のダンゴさんが記入した紙をそのまま鞄に突っ込んでいたのを見た。
それからホームルームの後、センセーと何かしら話をしてそのまま他の生徒に混じって帰ってった。
言っとくけどストーカーじゃないよ。
今日も屋上にいられたらたまんねーと思っただけ。
正直、マジで今日だけはひとりフリーダムしたい気分なんだ。
ジリジリ、妙に焦ってきた。
あぁ、早くあの解放的な場所に立ちたい。解放されたい。
俺の髪が映る鏡もガラスも、ダチンコの瞳も存在しない場所、世界。
気を遣う相手もいない。
俺がそこにるということすら、誰も知らない。
フリーダム、エデン、テンプテーション…呼び方なんてなんだっていい。
あぁ、あと八歩。
七、六、五、四…。
――で、三歩。
ポケットから鍵を取り出す。
残り一段の階段をすっ飛ばしてニ歩。
で、踊り場を大股で一歩。
それからノブを押し付けるように鍵穴に鍵を差し込む。
踊り場の薄暗い気味悪さなんか気にならなかった。
この錆びた重い扉を開ければ、今朝感じた清々しさを感じられる。