臆病なサイモン






でも、最近さ、俺の前をチラチラウロチョロしてるヤツが現れて、こいつがまた、「変人」を絵に描いたようなヤツなんだ。

俺は「完全なる変人」になる前に、「昔は変人だったけど今は凡人」を選択するという自己防衛を行ったニュートラル系。


――でも多分、「こいつ」は違う。





「……どっか消えろ」

一昨日、転入してきた「段このえ」、は間違いなく、疑いようもなく、「変人」のまま成長しちまった、「ナチュラルに変人系」だ。


「…なにその言い方ぁ」

名前も知らない女子が言う。
他のクラスのヤツだ。名前知らない以前に顔も見たことねーわ。

あんたそれなんのジョーク、っていうような爪してる。きっと魔女目指してんだろーなー、て爪。

色だけはカラフルでチープ。
中坊がなに色気付いてんの、て言ってやりたいけど、なんかバチィッてした眼が怖いから声掛けたくない。


そんな女子。ブイエス、「ダンゴ」。

ゆっとくけど悪いのは魔女のほう。
朝っぱらからうちのクラスに入り浸ってて、ダンゴの席に勝手に座って同じような爪したダチとくっちゃべってたから。しかも机にケツ乗せて、引いた椅子に土足で脚を乗せている。

ワルィよなーこれは。
もう下品レベルに短いスカートから伸びる脚は細くてまぁまぁきれいだけど、睫毛バッサバッサなってる眼と、魔女の爪でマイナス。イモリとか鍋で煮てそう。

俺、ムリ。

生理的に受けつけない。

登校してきて、こんなのが自分の席にケツ乗せてやがったらそりゃイライラするわー。




「…そこ、私の席」

ダンゴがさらりと言う。

相変わらずの無表情だ。
昨日の屋上でのあの豹変ぶりも理解できなかったが、今のそのケンカ早さっつか、勇ましい態度、見ててこわい。


だって相手、魔女だぜ。

どうする、ダンゴ。

おまえ呪われるぞ。



「え?あ、そーなの?……じゃあホームルームまで貸しといてよ」

魔女、手強い!
こんな図々しくてマイウェイな人間が存在するなんて、俺ってばマジでびびった。
聞き耳立ててるクラスメイト達も引いてるっぽい。

リアルKY、最強だな。


「どうせ座っとかないっしょー?」

はいこの時点で生理的に受け付けないレベル超えたー。

ドーセスワットカナイッショーってなに?なんの呪文?ダンゴのなにを知っててそんなこと言えちゃうの?

聞いて驚くな、魔女。ダンゴは教室でぼっちなんだよ!ホームルームまでずっとひとりで自分の席に座ってんだよ!お前が今占領してるそこはダンゴにとっての聖域だ!!

とは、口は挟めない。

修羅場はすぐ隣で繰り広げられている。
俺は興味なさげにスラックスの両ポケに手ぇ突っ込んで、ちらーと一瞥した。

登校したてのダンゴは、鞄片手に占領された自分の席を前にただ突っ立っていた。
相変わらずの無表情に、冷ややかさがプラスされてやがる。

ぶちギレ寸前の不機嫌が、アリアリと見て取れた。

魔女もそれには気付いているのか、ピーンと伸びた爪をいじくりながら、地味に臨戦態勢。




――氷河期、キテル。

クラスメイトの耳はダンボダンボダンボ。
次、ダンゴがどんな言葉で切り返すか見ものだよな、てトコ。


「……」

でも、ダンゴはなにも言い返さなかった。

思いのほか、長く続く沈黙。
魔女は既にダンゴから視線を逸らし、ダチに向き合ってお喋りを再開している。

廃刊になったアゲハが~昨日電車ん中で超キモイオヤジ見かけて~そういえば日曜ヒマ?みたいな、内容すっかすかな、でも俺たちの年代にとってはよくあるような話題が聞こえてくる。

その間もダンゴ、無言。



なんで?

俺は思わず、一瞥どころかそっちに首を向けてダンゴを凝視してしまった。

相変わらず、ダンゴがふたつくっついてるみたいな小さな顔とでっかいお団子頭。
ふつふつと込み上げる不愉快を抑え込むように、ダンゴの眉間には深く皺が刻み込まれている。




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