臆病なサイモン
それでもそん時は、大好きな父親の悲しそうな声がショック過ぎて、自分は世界一だめなヤツなのかも、て思った。
だからそんな父親に喜んで欲しくて、俺は考えに考えに考えて。
――頭に墨汁、ぶっかけたんだ。
髪のみならず、全身真っ黒にした俺は、喜び勇んで両親にそれを見せに行ったわけ。
『これで、みんなとおそろいだよ』
て、無邪気な笑顔でさ。
それを何度も何度も繰り返しては、笑われたり叱られたり呆れられたりした。
結局、それが原因で「最低最悪」ではなかった両親の仲に亀裂が入っちゃったんだけど。
『なんで急にあんなこと言い出したの』
とか。
『もともとの原因は、アメリカ人と浮気した君だろう』
とか。
『あなたがあの子のキンパツを気にしてるからよ!』
とか。
もう、なんかさ、つまんない喧嘩ばっかが増えちゃって増えちゃって、一時は家庭崩壊まで行った。
(ま、タイミングよく妹が産まれたお陰で、崩壊は免れたけど…)
『斎門さんちの子、変わってるわよね』
みたいな。
アタマのてっぺんから墨汁被った俺は、近所のババア共の中で「変な子」だって噂になってた。
墨汁かぶってないときなんか、金髪キラキラさせてまるで珍獣だもんな。
そこで俺は、「自分」を軌道修正したわけ。
ギュギュッと急ブレーキかけるような進路変更じゃなくて、じわじわ、数センチずつ進んで尚且つブレーキ掛けながら、ゆっくりゆっくり、「変な子」から「おもしろい子」ってジャンルに修正してった。
こんなパツキンなんか気にしてませんよ。みたいなポーズとって、ポジティブでライトな「男」を目指したわけ。
だからまあ、今はそれなりにまともでいられる。
こんな目立つアタマで更に「変人」ときたらもう、俺ってばハブられちゃうかカリスマ的存在になるかのどっちかじゃん。
いやいやそんな危ない橋は渡りたくねー。
だから、器用で繊細なこども時代の俺、グッジョブ。
お陰で、この教室でも学校内でも浮いてない。
多少ちゃらけた、アタマの色が少々変わってる同級生、てな。
出る杭は打たれるって言うだろ?
出ないほうが身の為。
ハンマーでなんか殴られたら、キンパツは今にもグロッキーにクラッシュ。