臆病なサイモン
「やっぱダメだったぁ?」
事情知ってるダチンコが顔を覗かせる。
コイツは数学のテスト、「三十七点」だった。天才。マジでハンパねぇ。
「ワリ、今日のカラオケ、パスな」
「ええーっマジメ過ぎんだろサイモン!行こうぜー!」
「ムリ。数学のセンコーこっえーもん」
ガタガタッと席に戻ると、「サイモン赤点かよー」「ウケるー」「追試?おいらも一緒一緒ー!」てな。
ダチっていいよな。
俺まだ十五歳だけど、それだけは毎日のように実感してるワ。
な、なかなかイイ男じゃね?
うんそう、あ、わかるー?やっぱ滲み出てんだよな。内面からのこう…なんつうの、イイ男オーラ、ってやつ。
ギンギラギンにさりげなくパツキンなんだぜ。イカすだろ。
あ、そうそう、よく言われんだー。
俺の見た目しか知らないやつにも、仲いいダチンコにも、「おまえってイイヤツー」てな。
「はい、じゃあ、今日は転入生いっから、サイモンコールやめなー」
担任もいい様に俺のこと使うしね。俺は俺で、この立ち位置気に入ってたりする。
ドタマのパッキンが、染髪禁止のチュー坊ん中じゃ悪目立ちすっけど、この性格とイメージのお陰で、悲惨な目には遭ってない、まだ。
ガラララッ。
立て付けの良すぎる教室のドアが、けたたましい音を立てて開いた。
同じくけたたましかったサイモンコールがぴたりとやんで、我が同胞達――まぁつまり、クラスメイト達が一斉にそっちを見た。
入ってきたのは、学校指定のヘドロ色スリッパがよく似合っている、なんかこう、イモイモしてる女子だった。
ほら、なんての、田舎のさ、田んぼの畝とかにいそうな、三つ編みしてそうな、イモイモ感、あるわ、あるわあるわー。
でも三つ編みはしていない。
小さな頭のてっぺんで小さく揺れてる黒髪のお団子。
頭がちっさいから、団子がふたつくっついてるみたいに見える。
ぷぷっダンゴニ兄弟。あーあれでおっぱい大きかったらダンゴ三兄弟になるのに。いや、四兄弟か?
「…段 このえです」
窓側、前から二番目のアンラッキー、てか、ビッミョーな俺の席からは、彼女のイモイモした横顔がよく見えた。
少し上向いた鼻と小さなおちょぼ口、で、転入生とは思えないような落ち着いた視線。