リベンジコレクション
「そもそも、あんな街中で捨てられるなんてあり得ない」

 ポーチからあぶらとり紙を借りて、まず丁寧にテカリを取る。

「食べ物を粗末にすんなって、親から教えてもらってないんでしょ」

 綿棒にクレンジングオイルを馴染ませ、目元の滲みや剥がれたマスカラを落とす。

「読者モデルだからって調子に乗って偉そうだし」

 パウダーを薄くのせて、ほんのりとチークを入れる。

「あんな男、こっちからお断りだって」

 自分のバッグからルージュを取り出し、リップブラシで色をのせていく。

唇が華やかに彩られたのを確認し、私はようやく鏡に映った自分の姿に満足した。

ただ心の奥底には、どうしようもないもどかしさのようなものが渦巻いている。

「反撃、かぁ」

 カラーリングやパーマによって傷んだ髪を指で弄る。

「自分なりに頑張ってはみたけど……」

 もともと平凡な顔立ちだから、髪の色を変え、メイクをすれば一気に雰囲気が変わった。

地味な女でも磨けばそれなりになる。

ただ、今の私が何をしたところで、あつし君に反撃できるとは到底思えない。

あつし君は読者モデルとして働いていることもあり、女性慣れしていたし、女性を見る目も肥えていた。

メイクでがらりと顔を変えた女性や、ちょっと雑誌を読んで流行を取り入れた女性には、大して興味もないらしいのだ。

「……悔しい」

 あつし君は、私のことなんてどうでもいいのだと、思い知った今日。
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