月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
少年時代とゲームの終わり
「前にも言った通り私は取り調べの際に松村と子供の頃の話をしました」

その時、取調室の中には酒井課長と松村の二人だけだったそうだ。

黙秘を続ける松村の心を解きほぐすための配慮だったらしい。

「いま思えば、それが仇になったのかもしれません」

酒井課長は自嘲気味に笑った。

松村から「頼みがある」と切り出されたのは、昔話が一段落したところだった。

「あいつは私に奪った300万を託すと言ってきたんです」

しかしそれはただ託すのではなかった。

子供の頃によくやった、宝探しゲームの見届け人として酒井課長を指名したのだ。

松村は奪った300万で、警察や世間を相手に宝探しゲームをやろうとしていたのだった。

「最初は当然、そんなことできるかと突っぱねました」

しかし松村は自分が末期ガンであることを告げ、最後にこの世に生きた証を残したいと、涙ながらに訴えてきた。

しまいには取調室の床に土下座までしたという。

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