月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「なんで生きた証がそれなんだと思ったんですが…」

土下座した松村を見ているうちに、少年時代の思い出が次々とよみがえってきた。

宝探しゲーム。
メンコ、ベーゴマ。
草野球。
駄菓子屋。

純粋無垢に輝いていたあの頃、あの時間を共有した友人が、死を目の前にして、自分に最後の願いを託そうとしている。

「気付いた時にはもう、松村の頼みを聞く気になってました」

そして酒井課長は松村から300万を託された。

「ではあの暗号も課長が?」

「私は隠し場所を提供しただけで、暗号を作ったのは松村です」

松村は病床でガンによる痛みをこらえながら暗号を作りあげたという。

「その割にはずいぶんふざけた暗号だと思いましたけどね」

酒井課長はそう言ったがあたしには松村の執念というか、そういったものが感じられて、とても笑う気になれなかった。

「日野巡査」

黙り込んだあたしに酒井課長は言った。

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