君に許しのキスを
声の方を見ると、手で耳を塞ぎ、目を固く瞑っていた。

瞑った目の端から、涙が溢れ、身体はカタカタと震えている。



肩に置こうとした手は、何となく行き場を失った。
そのまま何となく、俺の意思とはあまり関係なく、彼女の頭の上に載った。

一瞬、触れた頭が身体ごとビクリ、と硬直した。


それでも手は載せたままにしておいてみる。
さらに、小さく円を描くように、撫でてみた。
すぐにさっきの強い口調で『やめてください』とでも言われると思った。
だから、止めるのはそれからでいいか、そう思いながらそのまま頭を撫でた。


しばらくしても、強い言葉は聞こえてこなかった。
俺がなんとなく手をそのままにしていると、身体の震えはやがて、穏やかな呼吸へと変わった。
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