君に許しのキスを
そこは様々な熱帯魚などの小さな水槽が並んでいるスペースだった。

凜は、そこにあったひとつの小さな水槽に張り付くようにして、小さなタコを見ていた。

俺も少し後ろから水槽を覗き込み、彼女に聞いた。


「そんな可愛いですか?タコ。」

「可愛いって言うかさ、あたし、そんなに似てるかな、って。」

彼女は視線の先をタコに固定させたまま言った。
俺はその大まじめな言い方に少し笑って聞いた。

「まだ根に持ってんの?」

「そういうんじゃなくて。
どうせなら、本当にあたし、タコだったら良かったなと思って。」


また凜は大まじめに言った。

「海の中を、こうやってただ静かに泳いでさ。」
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