君に許しのキスを
その日、俺達は初めて、手を繋いだ。
想像していた以上に小さく、細く、柔らかい手だった。
その手を初めて、俺の住む部屋へと引き入れた。

そして初めて、唇を重ねた。
彼女は、あの時のように倒れたりはしなかった。
ただその瞳を潤ませ、俺の瞳を見据えていた。


もう一度、唇を重ねた。
今度は、深く。
彼女の温もりを直に感じるのと同時に、彼女の緊張が高まるのがわかった。


しかし彼女は、俺がそれ以上は止めようとすると、強い瞳で拒んだ。


「大丈夫。」


そう自分に言い聞かせるように、何度も訴えかけた。


「大丈夫。
だから、続けて。」


その瞳から感じ取れたのは、悲しみでも絶望でもない。
強さだけだった。
俺は自分の目が、胸が、身体が熱くなるのを精一杯に抑え、彼女の小さな身体を強く抱きしめた。
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