魑魅魍魎の菊
菊花は空いている右手で正影の腕を使って、宙に反転しながら浮かぶ——
(な、何——)
軽く瞳孔を開いた瞬間、菊花の左手が右肩に突き刺さっていた。
——血液を帯びた、剣と妖力。
「わ、若ぁぁあああああ!!!」
一気に引き抜いた菊花は元に戻った左手を舐めて口元を自分の血と正影の血で汚す。
黄色の蛇目は最早妖怪でしかなく、背後にゆらゆらと輝く月光が伸びた彼女の髪を揺らすのだ。
(——ごめんね、誰も奇跡なんて待っていないの)
菊花は瞳をそっとを閉じ、——気配を感じながら意識を戻すのだ。そして、じっと開きながら…地面に前のめりになった玖珂正影をその細腕で担ぎ上げる。
「——小娘、正影をどうするつもりだ」
牙を剥き出しにする千影にそっと笑いかけたのだ。
「どうもしないよ。——玖珂君とこの蛇の子を玖珂家に送って行くだけ」
「貴様!!この邪悪な蛇も玖珂の神聖な場所に?!」
(ダメだ、鏡の…)
龍星は咄嗟に叫びそうになったが、明らかに女の子に向けて"殺気"を放っていた。危ない存在、今あの女に敵意を見せてはいけない…。
「あははっ、だから私って正義の味方面してる奴大嫌いなのよー。
そうやって、自分が"選ばれた物"とか思っちゃっている馬鹿が多いよね?」
「っ——?!」
「口を慎め、小娘…」
「何?"天狐"様」