魑魅魍魎の菊



——それからどうしたんだっけ?



そうだ、帰りのSTが終わった後に何故か屋上に行ったのだ。
誰も知らない屋上の入り口。


よく漫画で簡単に入れたり、不良の特権だったり、訳アリ主人公で何故かヘアピンでピッキングで鍵を開けるとか…



んなの現実にねぇよ。私が断言する。



(つか、私はどれにも該当しません)



先生や業者さん以外が立ち入ることのない屋上。頑丈な鍵を簡単に《力》で開けたんだ。
夕方になりかけているので、夕日擬きが容赦なく私の体に突き刺さる。



そこから伸びる影がまるで巨人のようになる。

何でだろうか。小さい頃って、意味も無いのに影踏みやったね。


鬼ごっこみたいに走って、走って。

だけどさ…
鬼ごっこって、ジャンケンの勝者が逃げ回ってそれを追いかけ回す弱者。今更思うとなんて弱肉強食な遊びなんだ——!


まあ…あれはあれで楽しい遊びだったと思うよ。





赤い風が私の体を吹き抜けて、肩につくぐらいの髪が優しく揺れる。
《他のなにか》が落ち込んだ菊花を慰めるように風を起こしたのかもしれない。


だが、それを知るのは《他のなにか》だけなのだ。
菊花の瞳は野球部が頑張っているグランドを見下ろした。


刑部君が他校と練習試合をするというのを聞いた。
ていうか…刑部君は試合に出るのか?




私は低めのフェンスに手を掛けていると、丁度植木くんがバットを持って打席に立っていた。
普段の人の良さそうな顔が引き締まって、凛とした表情になっていた。

初めて見た表情に驚きを感じながら、私は心の中で頑張ってと呟いたのだ。


 
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