魑魅魍魎の菊
ベンチから刑部君が大声で「打て——!植ちゃーんっ!」と応援している。
《他のなにか》と菊花は大きな風を感じながらグランドを見つめ、息を小さく飲んだのだ。
淀みなく流れる心は薄らと感じ取った。
(嫌な予感…)
*
(何か首周りが痛いな…)
そんなことをぼんやりと感じ、肩こりかと思い軽く首を回す。
打席に立つ植木はバットを構えながら投手をよく見つめた。やっとの思いで掴んだレギュラーの座、ここで落とすわけにはいかないし、俺が打たなければいくら練習試合でも負けてしまう。
9回表の4-2という微妙な点差。
塁に一人出ているが既に2アウト、俺がここで塁に出で次に繋げなくては!
いつだって真剣勝負が俺のモットーだし、緊張感を持って試合に望んでいる。
(クソッ…。西日が強くて、よく見えない)
まったく不利な状況に追い込まれてしまった。こんな西日さえ無ければ、もしかしたらもっと冷静になれたかもしれない。
今日の休み時間、高村にロロ…いやロリポップをあげ、刑部と三人でアホな話をしていたな…
休みの時間、全然試合のことなんて考えていなかった。
(高村……俺ァ、頑張って打つぜ)
ギュッとバットを握り直した。その瞬間だった。