魑魅魍魎の菊



ベンチから刑部君が大声で「打て——!植ちゃーんっ!」と応援している。
《他のなにか》と菊花は大きな風を感じながらグランドを見つめ、息を小さく飲んだのだ。



淀みなく流れる心は薄らと感じ取った。



(嫌な予感…)











(何か首周りが痛いな…)

そんなことをぼんやりと感じ、肩こりかと思い軽く首を回す。

打席に立つ植木はバットを構えながら投手をよく見つめた。やっとの思いで掴んだレギュラーの座、ここで落とすわけにはいかないし、俺が打たなければいくら練習試合でも負けてしまう。


9回表の4-2という微妙な点差。
塁に一人出ているが既に2アウト、俺がここで塁に出で次に繋げなくては!

いつだって真剣勝負が俺のモットーだし、緊張感を持って試合に望んでいる。



(クソッ…。西日が強くて、よく見えない)



まったく不利な状況に追い込まれてしまった。こんな西日さえ無ければ、もしかしたらもっと冷静になれたかもしれない。



今日の休み時間、高村にロロ…いやロリポップをあげ、刑部と三人でアホな話をしていたな…

休みの時間、全然試合のことなんて考えていなかった。


(高村……俺ァ、頑張って打つぜ)



ギュッとバットを握り直した。その瞬間だった。



 
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