魑魅魍魎の菊


と、その瞬間…。

テニスコートの向こう側にある茂みに「蛇」さんがにょろにょろとしてた。



(女の子に見つからないように…)


いやー、ここまで蛇を見て冷静な人物は私だけしか居ないであろう。女の子は蛇とか虫、苦手だもんね。


生憎菊花さんは慣れてしまったよ…。




(蛇、か——…)





「——…あーあ、綾崎さん達チャラチャラして嫌らしいよねー」


(んっ?)


「…ホント、授業中静かにして欲しいねよ。それに藤岡さん別れて今、山岸君…綾崎さんと付き合ってるみたい」



ヒソヒソと声が聞こえてきたので、ちらりと背後を見てみれば…。隣のクラスの女の子達だった。




「…最悪だよね…。男子だけに良い顔して猫かぶりだしさ」



これって——俗にいう陰口というやつでしょうかね。ていうか、「猫かぶり」っていうのはさ、静かにして大人しくしているのが正しい意味なのにな…。


正しい日本語を使おうね、少年少女よ。



(……でもま、"蛇"はよく嫉妬の象徴とか言うもんね)



綾崎さん達みたいな女の子グループが居て、クラスが盛り上がるんだよ。うん、私はそう豪語してるし。


だって私みたいな地味がしゃしゃってみなよ。クラスの中ブリザードだし、シベリア急行に乗せられる…。


あぁ…恐いよ、リチャード。菊花さんは平和に暮らしてたい。




「高村ー!お前、体育器具庫からグリップテープ持って来い!」

「何で私なのですか?!ただの図書委員なのに!」

ふと、先生に叫ばれたので腹から反論を!

そしたら…こちらにやって来て、私の肩をぽんっと叩いて——…




「お前が萩原龍星を更正に導いたのは玖珂から聞いたぞ!先生、高村がそんな積極的な生徒だと知って感動した!」



(——あの、麗しい美青年め…)

ワナワナと拳を震わせて、小さく「はい」と呟きながら走り出した!



「畜生——!!!だから、美形は大嫌いなんだ——!!」


その10秒後に転けたのは、神のみぞ知る。


(あ、あだっ!)


 
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