魑魅魍魎の菊



「加藤さんったら…私を買い被り過ぎですよ?」

「……なんて事を言うんだい、菊花ちゃん」



竹林が風によって、なんとも言えないざわめきを生み出す。その音さえも心地が良いんだ。


時に身を任せられるならば、私は今頃何処に流れ着いているんだろうか。


色褪せない思い出を夢見たけれど、未だにそんなものは見つからないんだ。探してみたけれど、全くと良い程見つからない。




(玖珂君が羨ましいだなんて言ったら、怒られるだろうか)



未だに夢すら掴めれない私はただの木偶の坊かもしれないわ。




「私は加藤さんが思っているような、"女"じゃないよ」







菊花は長刀を抜刀し、怯えた表情でこちらを見つめる加藤に突き出した。






「ここで貴方を簡単に滅することだって出来るから」






(ねぇ——玖珂っち、)



この娘の黒色の瞳には、何が映っているんだろう。
きっと、俺は映っていないよ。あんなに優しく、勇ましく、面白い娘が今やこんなことをするなんて想像すらつかなかった。


ただ——…初めて、ちゃんと俺の話を聞いてくれた女の子で。





人の痛みが解る娘だということは知ってるんだ。どうしてかな?


どうしてだろう?俺の瞳から涙が流れているのは。
裏切られたから?違う、そんな感情じゃない。もっと複雑で奥深いナニかなんだ。



誰か、





(菊花ちゃんを助けてあげて、)



俺には、そんな可能性なんか残されていない。

唇をぎゅっと噛み締めた加藤はゆらりと空高く舞い上がった。



 
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