魑魅魍魎の菊

形勢逆転と夜行さん



薄らと自分の首筋から血が流れたような気がした。
初めて生命の危機を感じた瞬間でもあった。



「ここらの地は全て俺の結界が張り巡らせてあるんだ。俺が解放の身になればお前の奇怪な術は通用しねぇ」



(嵌められたんだ——!)

今更ながらも自分がこの罠に陥っていることに気がついた。最初から終わっていたんじゃないの…。


崩れている体に何故か力が入らない。陣を切ったはずの指が動いてくれない。ズタズタに自分のプライドさえも崩されたような気がした。



「さぁ立てよ——最後まで地獄を見せてやる」



耳元に聞こえた声にゾクリとしてしまった。きっと、誰も助けに来れないだろう。

噂に聞いていた「玖珂の若頭」の力を相当舐めてかかっていた。初対面で私の正体に気がつけない"ただの馬鹿"としか思っていなかった。




——もう、自暴自棄になってやる。




蛇帯の叫び声が耳に残りながら、菊花は咄嗟に刀を震える手で握りながら素早く距離を取った。




「女にしてはその瞬発力は凄いな」

「…女性蔑視で訴えるわよ、」

「ほうやっぱり人間か?百鬼夜行の頭が実は人間だっただなんて滑稽だ」

「末裔まで轟く予定だからヨロシク」



菊花は口に刀を銜え直した。

片手が使えないんじゃ、体術と混ぜるしかない。



(もう生きる残る術がこれしかないなら、賭けてやろう)



菊花の放り投げた時計が炎によりゆらゆらとその光を反射させる。


 
< 59 / 401 >

この作品をシェア

pagetop