刹那の憂い(セツナのウレい)
突然、あたしの目の前の視界を、

グラスがふさいだ。

逆三角形な形に、長い足のグラス。

冷たさが命なので、体温を伝えにくいように長い足が付いている。

その、中身を満たした鮮やかなムラサキ。

クレームドバイオレットのムラサキだ。

スミレから作られたリキュールの色。

「キレイ」

あたしは思わず見とれて微笑んだ。

と、

「お客様から、だ『いただきます』って口つけて」

省吾さんがそっと言った。



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