あふれる、ふれる。
夏休み前/雨期。
ナナコにとって、この夏休みは卒業までの時間を短縮するためだけのものでしかない。
受験に向けた補講とか、塾とか、みんなは忙しく通うけど、なぜか特に努力しなくても「褒められる成績」が運良くとれる彼女にとって、そういった「通俗的な勉強行事」は無縁なのだ。
じゃあ、ありあまった時間をどう過ごすのか。彼女は、青春時代の少女らしく、恋愛に費やすことにしていた。

*

キンコンカンコンと無機質に鳴り響くチャイムで、いっせいにみんなが生気を取り戻す。
ザワザワ ザワザワ
突然はじまった喧騒の中、ナナコは担任が戻るまでのわずかな時間をいつも化粧に充てている。
「ナナコ、毎日よくやるねー。」
前の席のミサは、自分もピンクのリップなどで化粧を施しつつ、フルでメイクにいそしむナナコに声をかける。
「あ、マスカラ貸してよ。」
無遠慮に伸びてきた手をナナコは軽く叩き落とした。
「いい加減に買ってもらいなよ。だめ、これあとちょっとしかないんだから。」
めげずにミサはチークに手を伸ばした。
「これ、借りるね~。今日も隣の高校いくの?」
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