一生分の恋
知らず知らずのうちに見つめていた教室のドアにマイが現れた。

その表情からは何も読み取れないが…

駆け出したい気持ちを抑えて、わざとゆっくりとした足取りでドアへ向かう。私の机はいちばん窓寄りのいちばん後ろ。ドアからは最も遠いが、授業中の内職には好都合だ。

マイの手にはシワシワの紙片。
彼女の手紙はノートの切れ端などではなく、いつもどこかから拾ったような紙屑だ。

お互いに無言で、手紙を受け渡された。

今すぐ読むべきか一瞬迷ったが、マイが無言で立ったまま動く気配がなかったので、意を決して開封する。

その紙には見覚えがある罫線が。そして、いつもより少し丁寧な自分の筆跡。

かぁっと顔が熱くなった。思いを込めた手紙はつっ返された。

赤くなっているだろう顔をマイに向ける事もできずに俯いたまま、手紙を弄んでいたら、裏側に何か書いてある。
特徴のある、柔らかな右上がりの小さな文字はマイの書いた文字。

夢中で読み下して、すぐに目の前にいるマイに噛みついた。

「そんなんじゃないよ、本気なんだ!」

「でもさ…」

マイには珍しく歯切れの悪い反応。
続けて
「私から友達を奪うの?友達でいて欲しいよ」

手紙には

思春期にはね、一度は同性を好きになる事があるらしいよ

と書かれていた。

いつの間にか午後の授業の開始を告げるベルがなり、廊下に静けさが戻りつつある。

「じゃあ、またね」

いつもより優しい声で、いつもはしない挨拶をしてマイは去って行く。

私もふわふわと漂うように席に着く。
五時限目は幸いにも国語。ひとり考え事に更けるのには最適の時間だ。

なぜだ?なぜだ?なぜだ?

思考は無意味なスパイラルをグルグルと周り続ける。

結局は自分の気持ちが伝えきれていなかった?
本気だと思われなかった。だから、思春期の一過性の気の迷いだと…

とんでもない!自分は本気だ!そんな、心理学者が言いそうな理論で片付けられてなるものか。

しかし精神的な病が、病識がないと言う理由で診断されるように、ただやみくもに告白していても逆効果なのかも知れない。
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