君に贈る詩*

届かない



「奈緒。
さよなら、しようか」


「……なんでよ」


「このままいたって、こうやって喧嘩してばかりだ、きっと」

雄は苦しげにそう答えた。

限界なのはあたしにだってわかってた。

だけど、自分から手放すことなんて出来なかったの。


「お互い、さ。
タイミングが合わなかったんだよ。
だからどっちが悪いとかそういう問題じゃないんだよな」


「……わかってる」


わかってるの、わかってる。


「うん。

ありがとな、3年間」

そう言ってあたしの頭を撫でる雄の手は温かい。

反対に、あたしの頬には冷たい涙が伝っていた。



いつ別れが来てもおかしくはなかったのはわかってたはずなのに、実際言われると、そんなことは関係なくなる。


行かないで、離れないで。

心の中で叫ぶけど、声にならない。




「……じゃあ、な。
いい人見つけろよ?」

雄はそう言って立ち上がる。

頭にあった温もりがそれと同時に消えた。



『バタン』

ドアが閉まる。


多分、もう一生会えない愛しい人は扉の奥に消えていった。




届かない
(好き。
どんなに言ったってもう遅いんだね)



< 65 / 66 >

この作品をシェア

pagetop