交わす杯《短》
考えてみてもやはり
どうしようもない、父親だった。
それでも
どんな形であれ、男手一つで俺を育ててくれた
ただひとりの、父親だった。
俺が生きている今は
親父がくれた、未来だ。
右手に持った缶ビールを、目の高さまで上げる。
無数の水滴を纏い、冷えたアルミが日に当たりきらきらと輝いている。
その眩しさに目を細めた後、墓石を真っ直ぐに見つめ、今はもうここにいない親父に、しっかりと声が届くように、言った。
「乾杯」
了
