蝉時雨を追いかけて
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「待っていたぞっ! おまえたちっ!」
職員室に入ると、ゲジが大声でおれたちを迎えてくれた。
顔には驚くほど表情がなくて、ゲジの感情をうかがい知ることはできない。
おれたちは並んでゲジの前に立った。
ゲジがポケットから毛抜きを取り出して、まゆ毛を一本抜いた。
こうしてまゆ毛を抜いているのをよく見かけるのだが、前見たときよりさらに毛が濃くなっているような気がするのは気のせいなのだろうか。
「実はなっ、今日はおまえたちにっ、話があるんだっ!」
「わかってるわよ。さっさと言ってちょうだい」
おかっぱはどうしてこんなにもゲジに対して強気なのだろう。
ああ、きっと毛に対するライバル心だな。
おかっぱの冷たい言い方に、ゲジはかすかに太いまゆ毛を動かした。
「おまえたちのダブルスはっ、解散させることにするっ!」
「な、なんでよ! 理由を教えなさいよ。あと一月で大会なのよ?」
おかっぱが取り乱し、頭が揺れて粉が舞い落ちる。ゲジはその粉を煙たそうに手で払った。
「最近っ、おまえたちはっ、最初の頃ほどやる気がないように見えるっ!」
「そんなことないわよ。ボーボーよ。オレたちはまゆ毛じゃなくて、心の炎がボーボーよ」
おかっぱはこんな状態でも感情を逆なでするようなことを言う。
ゲジのまゆ毛がまた動いて、眉間にしわができた。