蝉時雨を追いかけて
 おかっぱは、ベッドの上にどっかりとあぐらを掻いて座った。


「オイ拓海、なんでオレがテニス部に入ったのか知ってる?」


「知らないが、いまそんなことは関係ないだろ」


「オレの家、すごく貧乏なのよ。お風呂にも満足に入れないくらいにね」


 おかっぱのふけと臭いにはそんな秘密があったのか。


「母親がオレのまだ小さい頃に死んでね、父親はそのショックで働かなくなったのよ」


「ああ、そうか」


「オレには弟と妹がいて、母親代わりのことをしなきゃいけなくなったの。それで母親のマネをしてたら、オカマみたいなしゃべり方になっちゃったんだけどね」


 意外な事実が続く。だが、なんでおかっぱは突然こんなことを言い出したのだろうか。


「貧乏だから、お金を払わずに入れる学校を選んだのよ。部活に入るつもりは、まったくなかった」


「ああ、そうか。それがどうしたんだ」


「それでもテニス部に入ったのは、拓海がいたからなのよ」
< 144 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop