蝉時雨を追いかけて
 ゲジがジャージのポケットから毛抜きを取り出し、右のまゆ毛を一本抜いた。

それを、ふーっと息で飛ばす。

おかっぱは素早く反応し、まゆ毛をキャッチすると、うれしそうに髪の中へまぎれこませた。

おまえは一体、なにをしている。


「おまえらっ、ダブルスで拓馬に勝とうとしているらしいなっ!」


「どうしてそれを?」


「拓馬に聞いたっ! それにっ、昨日の試合も観たっ!」


「そうですか」


 意外だった。ゲジはあまり練習にはこない。

昨日もきていなかったはずなのだが、どこで観ていたのだろうか。


「私はなっ、おまえらを応援するっ!」


 ゲジが今度は左のまゆ毛を一本抜いて、また吹き飛ばす。

おかっぱがそれに反応して、今度はうれしそうにまゆ毛へもぐりこませた。

意味がわからないし、完全なる能力の無駄遣いだ。


「おまえらの特性を考えればっ、たしかにダブルスの方が可能性があるっ!」


 ゲジは、おれたちのことを見ていないようで見ていたんだ。

そうでなければ、特性なんてわからないはずだ。

……もしかしたら、適当に言ってるだけなのかもしれないが。

< 46 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop