蝉時雨を追いかけて
 話題が途切れて、またしても北村麗華はシャーペンを触りはじめた。

このままではいけない。一度冷静になるため、アイスコーヒーに手を伸ばした。

苦い。カッコつけて、ブラックにしたのは失敗だ。

いつも通りオレンジジュースにすれば良かった。


「そういえば、北村さんはどうしてマネージャーになったんだ? 選手としても実力があるみたいだったのに」


「あ、それは理由がふたつあるんです。ひとつはマネージャーのほうが女の子らしいと思ったから。もうひとつは……」


「あれれ、拓海ちゃん?」


 北村麗華の言葉は別の声でかき消された。

横を見ると、座ったおれの目線には、巨大な胸が見えた。

こんなにも大きな胸でおれのことを拓海ちゃんと呼ぶ人物はひとりしかいない。


「茨木さん?」


「あれれ、久しぶりだね! 納豆食べてる?」


「まあ、それなりに」


 茨木ゆかり。おれがかつて告白をし、「拓馬ちゃんが好きだから」と断ってきた人物のひとりだ。
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