ろく


−ろく! 話してくれるんですね!

「ああ、さっきソーセージをかっぱらった奴見ただろ? アイツに監視されててな。まあ、味方なんだけどな。年寄り連中をこないだの件で怒らせちまってよ。まあ、あれだ。おいらたちの世界では、やっぱし「人」と話すのはご法度な部分があってよ。分かるだろ? 優子。今はやっぱし「人」が闊歩する世界だよな? すっとな、秩序ってもんが必要なんだよ。猫が「人」並みに話せるなんて「人」は理解できても、許容は出来ねえだろう?」

−うん! うん! そうですね!

「なんだい、優子。やけに嬉しそうじゃねえか。よっぽどおいらに会いたかったんだな?」

−うん!

「ちっ! 調子狂うじゃねえか……」


ろくはそう言うと、そっぽを向いた。

人間みたいに赤面しないが、ろくもきっと照れてるんだと思う。


−でも……そうすると、私とこうやって話してるのはマズイってことですか?

「いや、まあ、不味くないといったら嘘になるけどよ。なあ、優子。おいらはお前さんと話すのが嬉しいんだよ」

−私も!


まだ路地の日陰には雪が残っている。

とはいえ、私たちがいる日向はぽかぽかと春の日差しに暖められていた。

私はろくのざらざらとしてふにふにとしてる肉球を触りながら話を続けた。
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